2015/10/22


昔から「企業(経営)とは環境適応業だ」といわれます。今でもこの言葉は使われることがありますが、DJだろうとイベンターだろうと同じで、業としてやるなら環境適応は大事です。もちろん環境適応といってもガラパゴス的な環境適応ではありませんよ。もちろんガラパゴス化した音楽のみをコアに追い求めてその環境のみで生きていくのであればそれはそれなのでブレずに我が道を信じて極めていってください。もちろん、その環境の中で王になればそれなりの市場を獲得することができますね。ただ、グローバルな視点で考えるなら、広い意味での環境適応は最も重要だと思ってます。
 
 DJやクラブの世界でいえば、大きな環境変化の一つはジャンルの流行り廃りでしょう。音楽そのものの流行り廃りにすら適応できずにDJだと名乗っている人は今時ほとんどいないと思いますが、流行に乗ることもそれを乗りこなすことはもちろん、理想的には自分で流行を作っていくことに繋げて適応しながらむしろ新たな環境を作っていくことができたらベストですよね。日本でも、キュレーター的に新しい音楽をどんどん取り入れて紹介して自分がその音楽の第一人者のようなポジションを作りながら市場を拡大している人達も出てくるようになりましたし、これは正解の一つだと思います。
 イノベーションとか大風呂敷広げたくせに、結局ジャンル云々の話に小さくまとまっちゃってる感じで恐縮ではあるんだけど、結局その辺ってすごく大事だと思うんですよ。少なからず今の日本で市場規模を拡大しているイベントにはジャンルという概念がないか、逆にジャンルに拘っているかどっちか。従って音楽そのものの捉え方を柔軟にするというのは答えの一つだと思ってます。

次に、最近会社の偉い人から聞いた話に、経営に重要な要素として、ダイバーシティ、グローバルなマインドセット、イノベーションをどう理解し、身に付けるかが大事だよというのがありまして、これもDJ、クラブ業界であっても同じだなぁと思ったので紹介します。

ダイバーシティに関してDJ、クラブの世界に当てはめると、前述のDJの間口が広まった話でも触れたように、かなり多様な人材が業界に流入しており正にDJは多様化してきているように思うので、それを促進していくべき。また、ジャンルの概念がなくなってきているのは非常に良いことですが、さまざまな価値観の違いを尊重して受け入れ、その「違い」を自ら積極的に活かすことにより、変化しつづける環境や多様化する顧客ニーズに最も効果的に対応して、自分の優位性を高めていくことが重要だというようなことになると思います。
もちろん、単にジャンルや企画をごちゃ混ぜに色々取り入れてやるのが良いということではなく、多様な考え方、違いを受け入れて効果的に適応していく意味で、ジャンルや性別、国籍など色んな要素の「違い」を効果的に自分の表現の価値観に活かしていかなければならないということはいうまでもありません。

続いて、グローバルなマインドセットって何?っていうと、これは自らの感覚について複数の視点でマネジメントをすることが重要だというもの。まず、「知覚・認知のマネジメント」これは他者や異質なものについての深い理解をいかにスピーディーに行なうかの訓練を積み、細かい違いで一々パニクらないマインドを作ることが大事というもの。「関係のマネジメント」これは、文化を理解することや他者を慮る考え方を訓練することが大事というもの。「自己のマネジメント」これは、自己の強み・弱み・偏りをしっかり理解してTPOに応じて自らを管理するチカラを磨くというもの。これらについてはまあ世の中一般にもいわれてますし、人として当たりまえのことなので一つ一つの説明は割愛しますが、やはり「違い」を受け入れるという点が大事だということのようですね。

では最後にこれまで散々述べてきた「イノベーション」についてはどうかと。イノベーションを起こそうったってそうは簡単にいきませんが、柔軟で新しい発想を思いつくような訓練を日々行なうことは間違いなく大事です。ちょっと古い話のようですが、IMDという世界的に有名なビジネススクールで発想に必要な視点について取り上げられた例としてその偉い人が言ってた話が面白かったので最後に紹介します。


Q)アフリカだの僻地の山奥の村にワクチンを届けたいが、暑くてワクチンはダメになってしまうし、乗り物で運べるような道はないし、飛行機などの輸送手段ではコストがかかりすぎる。どうしたらいいか?



















A)「ラクダの背中にソーラーパネル+小さい冷蔵庫を乗せて運ばせる」


 この話、IMDの中で日本の家電メーカーの弱点をどう克服するかという議論中に語られたものみたいですが、日本人(日本企業)ならソーラーパネルに冷蔵庫を組み合わせるところまではすぐ思いつくし実践もするだろうけど、その先のラクダにくっ付けて運ばせるという発想の部分が中々出てこないだろうというもの。特に日本人にはね。
 つまり、島国日本のメーカーは、個々の要素技術は磨いても、ニーズがどこ(日本のみならず世界的な視野で)にあるのかを踏まえて解決策を生み出すことに無関心というか、文化の違いにニーズが含まれていうことを考えようというマインドにそもそもなっていないという例で、この点に、赤字脱却の大きなヒントがあるというお話です。使い古された話ではありますが、発想の訓練を積むことが大事だよっていう意味では重要だと思うんですよね。
 日本の市場や文化だけを見て、そこでの技術的変化や環境適応だけを考えて、グローバルな視野や多様な価値観を知らなければ、肝心の「ラクダ」の発想が出てこない。これ、DJの世界でも同じだと思うのです。

長々と書いてきましたが、幸いなことに自分の周りには多様な価値観で活動しているDJやイベンターがいっぱいいて、沢山の付加価値を生み出している人もいっぱいいます。一緒にイベントをやっているDJ SWINGは音楽だけでなく音そのものに拘ることで、付加価値をつけて新たな市場を広げている。また、イベントを一緒に創っている本業が洋服屋さんのイベンターは業種そのもののジャンル概念を自ら超えて活動することで顧客ミックスというかニーズの掘り起こし、顧客価値の創造をして、更にはイベントという場で人を繋ぐことで利益を生み出している。
そのイベントっていうのが毎月第1金曜日 agePaでやっているALIER。しかもこれ、ご存知の方も多いように特定ジャンルに拘ってやってます。グローバルな視野で多様な価値観を日々の活動に取り込んでいる人達が、わざと狭い視野にターゲットを絞ったことをやる。つまり、イノベーションを起こすべく、最新の音楽的技術、価値観に、多様な文化的、ジャンルを超えたを加えて化学変化を起こして、ラクダを生み出そうと動いている訳です。この話の前段でレコードがどうだとか、昔のダンスホール業界はどうだったと長々書いたのも、そういったジャンル固有の特性や音楽の変遷を踏まえたうえで、新たな価値観を提供しているのだということを伝えたかったからです。

はい、もう自分でも何を言ってるのかよくわからなくなってきましたが、要するに第一金曜日アゲハに来い、WATERに集まれということ。これが答えでした。

というか、これ前振りの長いイベント告知。駄文にお付き合いありがとうございました。

2015/10/20

【④物理的変化への適応】

 前回までに説明してきた物理的変化は、音楽の流通フォーマットの変遷を追いかけて、その時その時の技術がフォーマットに適応されるということを繰り返しているだけのあくまで後追いで生じた状況変化であり、決して技術革新が先に起こったものではありません。クラブ業界、DJ業界などにおいて、技術の進歩によって扱う音楽がアナログからデジタルに変わったとかいう変化は単なる物理的な変化で、やっていることの本質的な部分は「他人の著作物の繋ぎ合わせによって高揚感を煽る」ということで全く変わっておらず、イノベーションではないため、ユーザーの新たなニーズが発掘されている訳ではないとは何度も言ってるとおりです。
 
 でも、その物理的な変化が大きいんじゃないの?という声はあるでしょうし、確かに多少の影響はありました。超重いレコードを運ばなくてもできるから体力的な負担が軽くなることで女性DJが増えた、イニシャルコストが低くなったことで子供でも誰でもすぐ始められるようになった、デバイスの操作が簡単になったことで技術的ハードルが下がったなど確かに一見すると間口は広がり、誰でも簡単にプレイすることが出来るようになったように見えます。
 本当にそうでしょうか?その広がった間口から入り込んだ人たちがどれだけ生き残ってシーンで活躍してるんでしょうか?クラブの現場でDJと呼ばれる人たちを見ている限りは余り影響がないように感じます。
 影響がないどころか、デジタル化によって、逆にDJ達には、従来より遥かに多くの曲を把握し、持ち歩いている何万曲から選ぶすることが求められ、当然ながらアナログでは出来なかったような革新的なプレイを求められ、日々変わり続けるハード、ソフトのテクノロジーを十分に使いこなすこと、などなどなど・・・が求められます。しかも作曲できないと一流と認められない厳しい状況。というとんでもない高ハードルなことばかり。まあそういう意味では“他人の著作物“の繋ぎ合わせだけではなくなってきてるのかも知れないかな。

近年では音楽に「ジャンル」というような概念もほとんどなくなり、従来のように、そのジャンルごとの特性に応じた自分の文化的背景やライフスタイルの提示、さらには自身のキャラクター、ファッション性などの付帯要素(本来付帯要素ではないと思ってますが)をアピールする、それらで差別化を図るというようなことでは到底カバーすることのできないレベルの、プレイや音楽性そのもののクオリティの高さを要求される時代になっています。
そのような状況のなか、最近よく世の中で話題になる「仕事が機械に置き換わって近々無くなるよっていう脅しのお話」のように、技術革新により素人や機械、コンピューターにプロの仕事が代替されるということなどは生じていませんし、一見広がったように見える間口からこの世界をちょっと覗いた人達によってプロの仕事が駆逐されるような本質的変化は一切生じていません。これはある意味商機、勝機がまだまだあるということの裏返しではないでしょうか?30年前と同じことをやっていても仕事が増えている業界なんて他にありますか?

 世の中では何十年前には出来なかったことがどんどんできるようになっていますがDJの世界では何か新しいことが出来るようになっている訳でもないし、本質的なイノベーションは起こってない。少なくとも日本では。そんな状況の中でイノベーションが起こせたら完全に勝ち組になれる訳です。
そういう意味でも、前述の技術的変化、物理的変化にもっと適応するというか、その効果を上手く使わないといけないし柔軟な発想をしなくてはならない。技術革新をただツールとして使って適応できたというのでは全然ダメで、技術革新をイノベーションに繋げる努力をしなければならないので、プレイどころか凄まじくハードルが高いですが・・・ これをやっていかなくてはなりません。

 グローバルな視点でみたらDJイベントに世界中で何十万人も集まり、DJに対して何百万、何千万というギャラが支払われる時代になってきており、これはある意味イノベーションが起こっていて、見えなかったDJに求められるニーズが創出されているといえるのではないでしょうか。市場規模の拡大=イノベーションではないけど、ここまで市場が拡大した背景には既存の市場価値が破壊され、全然別の市場を巻き込んだ新たな市場が創出されたといえるような実態があるんだと思います。この波には乗っていかないといけないのはいうまでもありません。日本でも開催されるようになってきたDJ主体のフェスに出ればいいという話ではありませんね。終始抽象的な話になってしまうんだけどイノベーションを起こさないといけないんでしょう。

うちのメンバーもそうだし後輩にはいっぱい野心をもった有望なDJが沢山います。話すと口々に業界の閉塞感や問題認識をしていることを語る。でも解決策は分らないまま日々漫然と「営業」をこなして、それなりに食えるようになって30ぐらいになって悩む。もちろん、今の日本の市場ではその状態までいえば成功でしょうし十分胸を張って職業としてDJをやっている、イベンターをやっていると言えると思います。でももっと成功して市場を広げるのが本来あるべき仕事のあり方だし、日々の「営業」が仕事の本質ではないはずです。偉そうにいうけど、ビジネスマンとしてはそうあるべきでしょう。DJだって立派なビジネスマンだから。
サラリーマンがルーティンワークだけこなして成果を出していなかったら左遷かクビ。DJだってクラブ業界の人だって、市場に対して自分で付加価値付けないとダメなのは言うまでもありません。

 最後に、ビジネスとしてDJを捉えた時に、これからの時代に何が必要かというお話で終わります。

2015/10/16

③音楽を取り巻く物理的変化その2

 最後に買ったプレイ用の7インチはJunkanoo Riddimだったかな。既にレコードは使わないけどこれはきっと最後のグローバルヒットだろうから記念に買っておこうみたいな感じでした。実際には2004年以前から新譜のレコードプレイは全くしなくなってたと思うから、業界内では相当早い段階でレコードからCDに切り替えた方だったかと。
 その頃からCDJというツールがクラブプレイに耐えうる機械になり、ほとんどのクラブに常設されるようになっていったということもあいまって、特にダンスホールレゲエのプレイヤーにおいてはデジタルデータをCDに焼いたものを再生するという形態が益々加速し一般的になっていきました。
 あと、他のジャンルに先行して脱アナログ化が進んだ原因にはダブプレートという特有のシステムの影響がかなりあるかな。説明するまでも無いけど、ダブはアーティストに歌ってもらった自分専用曲、スペシャルとも呼ばれるもの。レゲエの世界では特にこれの良し悪しや所有数が評価に直結するためレコード以上の主要なプレイ音源でした。CDJが出てくるまでは、アセテート盤というレコードの前段階にサンプルで作るような簡易レコード(といってもとても重たいレコード盤)に自分専用曲を入れて所謂ダブプレートとしてかけていました。2000年初頭ぐらいには日本にもいくつかプレートを作ってくれる業者さんもあったりしたけど、当時はほとんどみんなジャマイカまで行って向こうで歌を歌ってもらってそれを何十ドルもかけてアセテート盤というレコードにしてかけるというとんでもない手間とコストをかけてプレイヤーたる地位を獲得していったのです。レゲエサウンドの人達は、通常のレコードだけでなく、ダブプレートを作り、更にはスピーカーまで作らなければ一流と認められなかったから、1000万ぐらいは余裕でかかる仕組み。
 自分達が始めた頃憧れた先輩達はみんなそれをしっかりやってたし同世代もみんなそのセオリー通りの世界で勝負してってた。人生のかけかたが半端じゃないんですよ。だから、未だにレゲエサウンドがブラックミュージック界隈で独特のリスペクトのされ方をするんだと思います。自分も、子供の頃から貯めてたお小遣いと、社会人になってからは普通にサラリーマンとして働いて、ボーナスの全てと給料のほとんどをダブに費やしました。森ビルがどうの(メンバーが関連会社に勤めてるだけだし)とかいわれの無い誹謗中傷?で散々嫌な目にあったけど、それに関しては未だに恨んでるw。まあ、今でも、勤めている会社名を知っていても年収何千万らしいとか、そんなクソみたいな社会常識を逸脱した話がまかり通っちゃうのも酷い世界だなってことの表れでそこも問題なんだけどね。当時はネット上での噂話とかでそういうのが特に多かった。流行に流行ったダンスホールレゲエが完全なるDQNミュージックになってしまった時代なのでしょうがないですね。当時は二足の草鞋はNGって風潮があったからそれを払拭したくてサラリーマンを前面に押し出したらバビロンとか言われたり。。。

って話がそれ過ぎるからそれはそれで今度書こう。

 話を戻すと、ダブプレートを作らずにCDでかけられることで重さもコストもものすごく軽減できるため、ダンスホールレゲエ業界界隈ではデジタルデータの流通とCDJの利用が急速に広まっていきました。リミックスもその日用で作ったものをその場でかけられるというのがそれはもう劇的な進歩。ダブが最重要だったレゲエサウンドにとって、重いダブプレートの持ち運びから解放されるための脱アナログ化は至極当然の流れでした。

 モノマネポーザーは10年前はブラックチャイニー、今はメイジャーレイザーのフォローとそういう意味では全くブレずにネタ元を一貫して真似してるわけですが、当時はブラックチャイニーなどのマイアミレゲエを真似てユーロビート×ダンスホールのリミックスとかを一生懸命作っており、CDJより更に見た目にもハイテク感というかレゲエ特有のいなたさを払拭しいとか思っていたため、その後すぐIndigoDJとかいう変なサウンドカードを使って無理やりPCでプレイしたりもしました。当時はスクラッチライブみたいなインターフェースとタンテなどのデバイスを繋ぐような仕組みはなかったから、PCとミキサーをサウンドカードで直接繋いで、PCはマウス操作って感じ。傍から見たらまったくDJには見えなかったでしょうし、あいつ何やってんの的な冷ややかな目だった。
 そんな工夫も色々して無駄な投資もいっぱいしてきたけど、今は必要な機材は現場にあるし、ツールはタダだし、音源もタダみたいなもんだし楽。Mixed In keyが高くてどうしようとか言うのはやめましょう。

 そんなこんなで、データのみならず音楽関連情報に関しても同様に、リアル店舗をハブとして情報や人が繋がっていくという従来の情報の流れはネットワーク上でのデジタルデータのやり取りという流れに置き換えられていきます。これは一般的な情報と同じですが、情報の入手先は最初はフォーラム的な掲示板からスタートして、ブログや専門サイトに移行し・・・というフォーマット変遷の紆余曲折を経てあらゆる情報はデジタルデータとしてネットワーク上でやり取りされるようになりました。

 この頃からDJ(というと語弊があるかな?セレクターならほぼこれが当てはまるでしょう)の音楽データの入手は次のフェーズに入り、最新音源がアップロードされたサイトのURLリンクをいかにして入手するかと同義になっていきます。P2Pでデータそのものをやり取りすることからクラウド上のデータへのアクセスリンクという「情報」を入手するという形へ変遷したということです。iTuneなどの正規音源のクラウドサービスがしっかり整備されるのはもっと後のことで、その期間が長かったためデータ=フリーという概念が定着してしまったのは世間一般の話としても同じでしょう。

 音楽にかかる諸々のデジタル化により、新譜レコードのリリースの絶対量は減りましたしレコード屋さんも減り、今では物理的なレコードで新譜を手に入れる人はマニアコレクターだけで、DJといえばアナログレコードではなくデジタルデータを扱う人になりました。近年レコードの需要が増えているとかアマダナガーとか盛り上がってきてますが、当時のように必要だしそれしか入手方法がないから買わざるを得ないという状況に戻らない限り、当時のようにレコードが売れることは無いように思います。

 このように、かなりの短期間の間に音楽=デジタルデータに変わったことで何が変わったかというと、プレイ時の持ち物がレコードからPCに変わりUSBに変わっただけ。最初に述べたように、DJと呼ばれる人達は2015年現在と30年前とやることもやっていることも何も変わっていません。

じゃあ変わってないし変わらない中で何を変えたらいいのかは次に。さすがに長いか・・・

2015/10/01

②音楽を取り巻く物理的変化その1

音楽の入手経路やフォーマットの変遷についてはここ10年ぐらいの間にとんでもなく大きな変化がありました。しかし、それがDJ、クラブに変化をもたらしたとはいえないと思ってます。STEMでこれからもっともっと変わるんだとか言うかもしれないけどそうはならないでしょう。

自分の場合、2000年頭までは音楽はレコード屋さんの店頭で「レコード」というプラスチックの媒体に固定された状態の“モノ”を物理的に購入するという形式で音楽を入手してました。当時まだCDJは今のような使い勝手のいいものではなかったためCDは使い道がないからほとんど買わなかった。そもそもレコード買うだけでとんでもないお金がかかったから更にCDまで買うとか無理だけど。。。

また、情報に関しても、基本はレコード屋・クラブ・洋服屋などのリアル店舗での収集が主で、雑誌やメディアから得る情報を質・量共に遥かに上回っていた(DJというプレイヤーとして有用な情報という意味で)と記憶しています。

ところが、この頃から、ブロードバンド化などインターネット技術の発達に伴い、音楽がデジタルデータとして流通し始めます。データそのものを流通させるという方法が安価にできるようになるにつれ、音楽をテープ、CDなどの記録媒体に固定してその媒体を流通させるという仕組みを採る必要がなくなったのです。

まずは何らかの形で作り手の元からリークしたmp3形式の音楽データはP2Pという仕組みを利用して拡散されるという状況が増えていったと思います。若い子は知らないかもしれないけど、Winnyに代表されるような、簡単にいうと著作権法上は違法なデータ共有システム。お互いの持っているデータをWebを介してトレードできる仕組み。今でもたまにアニメをアップロードして捕まりましたとかニュースになるアレです。そのP2Pも最初はクローズドな世界で、玄人とかプレイヤーだけが互いの音源をトレードするために利用するプロ用のマーケットプレースみたいな感じでした。ほぼサウンドマンしかいないんじゃないかっていうようなP2Pアプリもあったり、ギークな感じがとても楽しかった。P2P上でやり取りされるデータの中でも持っているとすごいと思われるのがアカペラデータ。中には後述するダブのものもあって、サウンド名が消されていたりそのままだったり、こういうのは当然スタジオの人間がネットワークの流したものですが、レアなアカペラをゲットするにはトレードするレア音源を持ってないとダメだったりとカードゲームみたいな要素もありました。

しかし、こうした音源入手ルートを確立した人間の中には当然それで金儲けしようっていうバカもいっぱい出てきます。ソースが正規であれ非正規であれこれらの音源をコンパイルして逆にCDという媒体に固定し物理的にも流通させ始める者が現われます。カナダのAUDIOMAXXXのキングラージとか覚えてる?そういうのが特にダンスホールレゲエ業界では急速に広がりました。(他のジャンルはどうだったのかは知らないので誰か教えてください。)

つまり、当初は一部のプロに近い人達だけがプロモ的に取り扱っていた「音源データそのもの」がCDの形で違法に流通するようになったため、一般ユーザーもそれを容易に手に入れらるようになり、ソースがよく分らない音源が膨大な量流通するようになってしまいました。その頃から、正規版のレコードのリリース量は減る一方で、かけたい曲(特に最新の)を手に入れるには、そうしたプレリリースのデジタルデータを入手しなければならないという変な状態が当たり前になっていきます。元々、レゲエのレコードショップはプロショップ的な意味合いが強かったため、この、プレイヤー間でのP2P型音楽入手の広まりの先にある、データCD販売が店舗型音楽販売というモノが、既存のレコードショップというビジネスモデルに与えたインパクトは相当なものがあったと認識しています。ほんとはこの辺の事をもっと深く書きたいんだけど、それだけで何万字になってしまうのでその辺はボスウイングスのタケ辺りに書いてもらいましょう。

これが2000年初頭のお話です。