2015/10/20

【④物理的変化への適応】

 前回までに説明してきた物理的変化は、音楽の流通フォーマットの変遷を追いかけて、その時その時の技術がフォーマットに適応されるということを繰り返しているだけのあくまで後追いで生じた状況変化であり、決して技術革新が先に起こったものではありません。クラブ業界、DJ業界などにおいて、技術の進歩によって扱う音楽がアナログからデジタルに変わったとかいう変化は単なる物理的な変化で、やっていることの本質的な部分は「他人の著作物の繋ぎ合わせによって高揚感を煽る」ということで全く変わっておらず、イノベーションではないため、ユーザーの新たなニーズが発掘されている訳ではないとは何度も言ってるとおりです。
 
 でも、その物理的な変化が大きいんじゃないの?という声はあるでしょうし、確かに多少の影響はありました。超重いレコードを運ばなくてもできるから体力的な負担が軽くなることで女性DJが増えた、イニシャルコストが低くなったことで子供でも誰でもすぐ始められるようになった、デバイスの操作が簡単になったことで技術的ハードルが下がったなど確かに一見すると間口は広がり、誰でも簡単にプレイすることが出来るようになったように見えます。
 本当にそうでしょうか?その広がった間口から入り込んだ人たちがどれだけ生き残ってシーンで活躍してるんでしょうか?クラブの現場でDJと呼ばれる人たちを見ている限りは余り影響がないように感じます。
 影響がないどころか、デジタル化によって、逆にDJ達には、従来より遥かに多くの曲を把握し、持ち歩いている何万曲から選ぶすることが求められ、当然ながらアナログでは出来なかったような革新的なプレイを求められ、日々変わり続けるハード、ソフトのテクノロジーを十分に使いこなすこと、などなどなど・・・が求められます。しかも作曲できないと一流と認められない厳しい状況。というとんでもない高ハードルなことばかり。まあそういう意味では“他人の著作物“の繋ぎ合わせだけではなくなってきてるのかも知れないかな。

近年では音楽に「ジャンル」というような概念もほとんどなくなり、従来のように、そのジャンルごとの特性に応じた自分の文化的背景やライフスタイルの提示、さらには自身のキャラクター、ファッション性などの付帯要素(本来付帯要素ではないと思ってますが)をアピールする、それらで差別化を図るというようなことでは到底カバーすることのできないレベルの、プレイや音楽性そのもののクオリティの高さを要求される時代になっています。
そのような状況のなか、最近よく世の中で話題になる「仕事が機械に置き換わって近々無くなるよっていう脅しのお話」のように、技術革新により素人や機械、コンピューターにプロの仕事が代替されるということなどは生じていませんし、一見広がったように見える間口からこの世界をちょっと覗いた人達によってプロの仕事が駆逐されるような本質的変化は一切生じていません。これはある意味商機、勝機がまだまだあるということの裏返しではないでしょうか?30年前と同じことをやっていても仕事が増えている業界なんて他にありますか?

 世の中では何十年前には出来なかったことがどんどんできるようになっていますがDJの世界では何か新しいことが出来るようになっている訳でもないし、本質的なイノベーションは起こってない。少なくとも日本では。そんな状況の中でイノベーションが起こせたら完全に勝ち組になれる訳です。
そういう意味でも、前述の技術的変化、物理的変化にもっと適応するというか、その効果を上手く使わないといけないし柔軟な発想をしなくてはならない。技術革新をただツールとして使って適応できたというのでは全然ダメで、技術革新をイノベーションに繋げる努力をしなければならないので、プレイどころか凄まじくハードルが高いですが・・・ これをやっていかなくてはなりません。

 グローバルな視点でみたらDJイベントに世界中で何十万人も集まり、DJに対して何百万、何千万というギャラが支払われる時代になってきており、これはある意味イノベーションが起こっていて、見えなかったDJに求められるニーズが創出されているといえるのではないでしょうか。市場規模の拡大=イノベーションではないけど、ここまで市場が拡大した背景には既存の市場価値が破壊され、全然別の市場を巻き込んだ新たな市場が創出されたといえるような実態があるんだと思います。この波には乗っていかないといけないのはいうまでもありません。日本でも開催されるようになってきたDJ主体のフェスに出ればいいという話ではありませんね。終始抽象的な話になってしまうんだけどイノベーションを起こさないといけないんでしょう。

うちのメンバーもそうだし後輩にはいっぱい野心をもった有望なDJが沢山います。話すと口々に業界の閉塞感や問題認識をしていることを語る。でも解決策は分らないまま日々漫然と「営業」をこなして、それなりに食えるようになって30ぐらいになって悩む。もちろん、今の日本の市場ではその状態までいえば成功でしょうし十分胸を張って職業としてDJをやっている、イベンターをやっていると言えると思います。でももっと成功して市場を広げるのが本来あるべき仕事のあり方だし、日々の「営業」が仕事の本質ではないはずです。偉そうにいうけど、ビジネスマンとしてはそうあるべきでしょう。DJだって立派なビジネスマンだから。
サラリーマンがルーティンワークだけこなして成果を出していなかったら左遷かクビ。DJだってクラブ業界の人だって、市場に対して自分で付加価値付けないとダメなのは言うまでもありません。

 最後に、ビジネスとしてDJを捉えた時に、これからの時代に何が必要かというお話で終わります。

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